安倍政権が今月中の閣議決定をめざす『エネルギー基本計画』は、原発を「重要なベースロード電源」として再稼働を推進し、建設途上の原発は作業を再開し、建て替えなどを名目とする新・増設を認め、輸出も促進することになる。
基盤となる論理
原発ではどんな大事故が起こっても、電力とメーカーの経営者や政治家や幹部官僚などの関係責任者は、だれも責任をとることもないままで、すべてを国民負担に転嫁することができる。大資本の利潤追求は人間の命や健康より上に置かれて当然とされる。
東電への巨額な投資や融資で大いに利益を得てきた大銀行等の金融機関や株主は、免責されて負担しないままだ。収益を得ても、被害者への賠償金の支払いより、社債や融資の利子や償還の方が優先される。
巨大資本の果てしない増殖欲を担う経営者(独占資本家)にとって、再稼働や建設再開や輸出によって目先の利潤さえ大きければ、あとは野となれ山となれだ。
規制委と再稼働
「原子力規制委員会が規制基準に適合すると認めた場合、再稼働を進める」とする。
原子力規制委員会・規制庁も国家機関であり、独占資本のための機関である。
安倍首相は「世界一安全な規制基準」などとうそぶくが、「この規制を満たしても事故は起きる」と規制庁が公言している基準だ。
原発直下や近接する活断層も、主要な原発では、これからは動くことのないものとしてしまう。福島では津波以前に地震で重要な配管等が破裂して冷却水喪失を招いた可能性が大きいのに、未解明のままだ。
どこの原発でも、検出できないたくさんのひび割れや脆化が進行していて、次の一撃で大事故になる危険性が大きくなっているのに無視される。避難計画は自治体の責任に転嫁されているが、どこの原発でも、大事故時のまともな避難など成り立ちえない。
魅力を失った日本原電敦賀や関電美浜などは生贄にしながら、多くは次々に再稼働を認可する算段である。どこの原発にも地下水が流れているのに、福島事故に学ぶことなく、建屋周辺地下に遮水壁も造らないままで。
原発の「優位」性
原発を「優れた安定供給性と効率性を有し」とするが、「安定供給」どころか、原発が電力供給をいかに不安定にするかは福島事故が実証した通りである。
「効率性」が良いどころか、最新の火力複合発電(ガスタービンとスチームタービンの組み合わせ)では天然ガスで6割、石炭ガス化で5割の発電効率を上げているのに対し、原発では相変わらずの3割程度に過ぎず、ウランを核分裂させた熱の7割はもっぱら海水の温度を上げて地球温暖化に寄与している。
「コスト低減、温暖化対策の観点」もあげる。だが、電力コストは原発で低減されるどころか、東電資本の救済に十兆円もの国民負担が強いられ、さらに廃炉処理や各地の再稼働で累増する各種放射性廃棄物の処理・管理保管・処分によって子孫に回されるつけがどこまで増えることか。
経産省の数字にはウソが多く、大事故がない場合でも原発の本当のコストは石炭や天然ガスや風力等よりも高いことは、かねてより明らかである。
すぐに風力こそ
温暖化対策を言うなら、風力をはじめ自然エネルギーの本格的な利用こそ不可欠だ。
環境省は風力の潜在発電能力を、国内の陸上で二億八千万kw、洋上で十六憶kwと見積もっている。ところが電力会社は原発を従来から「重要なベースロード電源」としていて、送電網の拡充・整備を怠っているため、安価で潜在的能力が極めて大きい風力発電は一向に伸びない。
原発は即時全廃を決めて高効率火力の新・増設で補い、建設途上にあるJパワー(電源開発)の大間や中国電の島根や東北電の東通の原発は火力に改造することが必要である。
Jパワーも10電力も全国の洋上に大型風力発電基地を造り、陸地では音波公害防止に民家等から一定の距離をとりながら、高圧送電線沿線をはじめ全国の適地に風力発電を造ることが不可欠である。夜の原発のために造った揚水式発電は、風力等の変動電力に活用するべきだ。
核弾頭を志向し
安倍政権が、商用としてはとうに破綻している核燃料サイクルにこだわるのは、集団的自衛権行使とともに、H2Aロケットに載せる核弾頭用に高純度なプルトニウム239の生産を志向しているとしか考えられない。
パブコメの行方 新たな「エネルギー基本計画」案は、福島原発事故を受けた見直しのはずが、原発回帰を明記している。このため、与党内からも異論・反対が噴出している。政府が1月6日まで募集したパブリックコメントには1万9000件を超える意見があったというが、そのとりまとめ・公表については未だに「精査中であり未確定」という無責任さだ。
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