福島原発事故に学んで、ようやく自然(更新性)エネルギー発電が拡充され始めたのに、早くも暗雲がかかった。自然エネルギー発電の固定価格買い取り制度が骨抜きされつつある。まずは九州電力から自然エネ発電の購入受け入れを中断した。続いて他の電力会社も申し合わせたようにこれに続く。近年急増しているとはいえ、福島事故前に水力を除く自然エネルギーの発電量は全体の1%程度に過ぎず、13年度にはまだ全体の2%程度にすぎないというのに。
「大規模停電」のおどし
九電はこの制度に基づく買い取りを、九州全域で中断した。新規受け入れに加え、申請を済ませたが契約に至っていない約7万件も含める。10キロワット未満で自家消費もしている家庭用太陽光などは除いて。
九電の自然エネ導入量は現在300万キロワット程度で、自ら立てた計画量の4分の1に過ぎないのに。他の各社も同様である。東電と関電はすでに2月以降、送電線の受け入れ容量が足りなくなったことを理由として、関東、関西各県で、買い取り制限を開始していた。
各社は受付中断の理由について、「太陽光発電が急増し、需給のバランスが崩れる恐れが出てきた」とか、「発電量が送電網の容量を超えると、大規模な停電を起こす恐れがある」とおどす。
九電が7月までに契約した太陽光と風力の出力(設備)の総量は1260万キロワットであり、これは夏のピーク時間帯の需要の約8割に迫る計算になる。しかし九州全体がすっかり晴れていて、同時に適度な風がどこでも吹いているような時間はほとんどあるわけではない。実際の発電量は、出力の上記総量よりも相当に小さくなる。もし本当に電力管理が不安定になるほどの太陽光・風力発電が大きくなるのなら、揚水式発電を活用すればよい。
揚水式発電をなぜ活用しないか
夜の原発の稼働率を下げないために造られた揚水式発電(二段式のダムを造り、余剰電力で下のダムから上のダムに水を揚げ、需要の大きい時に発電する設備)は、今はまったく遊んでいる。これを自然エネ発電が多すぎるときに活用すれば、自然エネルギーを有効に使えるし、火力などをそれだけ節約できる。
つまりは原発を再稼働するために、揚水式発電を自然エネ発電には利用したくないのが電力資本の本音であろう。
蓄電器を使うという方法もある。九電などは、蓄電器を準備する発電事業者には、今後も個別に購入契約を結んでもよいとする。しかしこれは相当に高価であり、個々のソーラー事業者に設置させるべきものではない。効率よく蓄電器を生かすには、要所、要所に九電自身が設置すべきものである。これらはすべての電力会社について言えることである。
危機に立つ買い取り制度
2年前に導入された固定価格買い取り制度は、太陽光、風力、中小規模の水力、地熱、バイオマスの買い取りを義務付けているが、この根拠法である再生可能エネルギー特別措置法(3年前に成立)では、電力会社が再生エネ発電の購入を「拒んではならない」と明記している。ただし運用上の規則に、例外規定として「電気の円滑な供給の確保に支障が生じる恐れがある時」は断ってもよいとしている。
目先の利潤を最大限にしたいという電力独占資本に忠実な安倍政権と経産省は、「支障が生じる恐れがある」を拡大解釈するだけでなく、自然エネ買い取り量の上限を設定するなど、制度を抜本的に改悪する検討に入った。
「地方創生」どころではない
自然エネ発電を推進している事業者には大小の企業もあるが、自治体も少なくない。
例えば熊本県は、省エネとあわせ20年度までに、すべてを自然エネルギーでまかなう目標を立てているが、未着工のメガソーラー計画が6件残ったままだ。
このようなブレーキをかけては、第一に大震災の復興事業で自然エネルギーに取り組んでいる東北の皆さんに冷水を浴びせることになる。「地方創生」どころではない。
本当に必要なこと
送電網が不足したり、変電所の容量が足りないところでは、それを速やかに充足することこそ不可欠である。これは買い取り義務を持つ電力会社の責務のはずだ。
電力各社は管内の末端にまで送電網を装備すること、また各管内で余る電力は別の地域に送電できる十分な設備を完備すること、揚水式発電を活用することが必要だ。
安倍政権が自然エネ発電にブレーキをかけ、原発を再稼働させようとするのは、電力資本のためだけではない。輸出を拡大したい原発メーカー等のためでもある。三菱も日立も東芝も、原発が売れない所には新鋭火力発電を売り込んでいる。自然エネ発電の設備生産にも対応はしているが、激しい国際競争の中で日本の独占資本にとって、この分野では目先の利潤はさほど大きくはない。
このように日本独占資本とその政府の原発依存症は重症である。
ドイツではどうか
手もとに原八峰氏の訳による『再生可能エネルギー安定供給のための必要な新技術』(ノイエス・ドイッチェランド紙に3回シリーズで最近掲載)がある。2050年には電力の80%を自然エネルギーで、と決めているドイツでは、そのための技術開発と装備が着実に進められている。自然エネ発電が褐炭化力を抜いてトップに立った。
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