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2016.3.8
ずさん極まる被曝線量試算
特定避難勧奨地点を強引に解除
ふくいち周辺環境放射線モニタリング・プロジェクト
公益社団法人福島原発行動隊 理事
岡本達思




 2011年3月12日に起きた東京電力福島第一原発の爆発事故から早くも5年が経とうとしている。その事故収束作業は、遅々として進まず、今も高濃度に汚染されたままの原子炉建屋を中心とした構内除染や、流れくる地下水の汚染問題や、1〜3号機の使用済み燃料の取り出し、さらには溶融してどこへ飛散したかもわからない燃料デブリの探索に東電は血眼になっている。
 しかし、政府は20年のオリンピック開催前に、形だけでも復興の姿を世界にアピールしようと、姑息にも特定避難勧奨基準を年間1mSvから20mSvに引き上げ、避難した被災者の帰還を促し始めている。彼らのかつての町や村は、未だ人や動物が安全に暮らせる環境にないことを知りながら……。


 放射能汚染状況を可視化


 かつてない原発事故の影響で自然界を汚染しつくす放射性物質の実態と推移を記録し、そのデータを後世にまで残すことを目的とした「ふくいち周辺環境放射線モニタリング・プロジェクト」は、福島第一原発事故の1年半後の12年10月から南相馬市を中心に地域の放射線モニタリング活動を開始している。
 その活動は、南相馬市内の道路を中心として、70m×100mのメッシュを切った定点測定と、ホットスポットを任意に探索する測定の2つだ。さらに高線量のスポットでは、土壌も採取して放射性物質の線量分析もしている。測定方法は、空間線量率(μSv/時)は地上1mと50p、表面汚染計数率(cpm)は地表から1センチで計測。測定器は、国や東京電力と同様に、日立アロカメディカル社製の空間線量測定器(TCS172B)と表面汚染測定器(TGS146B)を使用している。 
 さらに、ギョロガイガーという簡易型測定器を常に身に付け、自動的に測定した放射線量を無線(ブルートゥース)でアンドロイド・スマートフォンに転送し、スマートフォンで得た位置情報と時刻情報定点計測を重ねたデータを作成し、放射線による汚染状況の可視化を試みている。


 住民無視の避難解除基準


 この間、国や福島県は、新たな問題が次から次へと噴出し一向に事故収束の道が切り開かれない福島第一原発を横目に、不毛な除染作業をゼネコンやデベロッパーに丸投げして公費を投入し続けてきた。しかし、そうした作業では成果を上げることはできず、福島第一原発の周辺地域は今なお多核種の放射性物質が残存し、人びとが安全に安心して生活できる環境に復元することはできていない。
 そんな中、2014年12月に国が原発事故の被災者たちに突きつけてきたのが、公衆の被曝限度を年間1mSvから20mSvに引き上げての特定避難勧奨地点の解除だ。除染をしてもなお改善できない環境下で、玄関先と庭中央のみの空間線量測定で「除染効果があった」とする行政は、被災者に対して放射線安全神話≠押し付け、支援打ち切りを宣言して帰還させようとする暴挙に出たのである。


 被災者とともに加害責任を追及


 私たちは、この地をすでに3回にわたって定点観測をし終えていたが、放射線汚染が一向に改善されていない現状を掴んでいた。昨年末に測定した通学路の土壌が、放射線管理区域基準の100倍以上(1u当たり407万ベクレル)、空気も水も原発事故前の数百倍以上も汚染されている事実を記録している。
 昨年、国の年間20mSv避難勧奨基準∴き上げに抗して訴訟を起こした「南相馬・勧奨避難地域の会」原告団となった206世帯808名全ての被災者宅の居室および敷地の放射線測定も行った。そこで得た結論は、国や行政が主張する「居室内の空間線量は玄関先の空間線量の八割」とした被災者の被ばく線量の試算がいかに杜撰であるかということだった。
 同じ個人宅の四隅でも空間線量は異なり、雨樋下や排水溝周りや庭石などからは、異常に高い空間線量や表面汚染計数を示すホットスポットも見つかった。南側の居間と北側の台所や寝室、一階の居間と二階の子ども部屋で、倍以上の空間線量の開きを示すケースも多々あった。さらに、林や竹薮や山を背負った住居では、おしなべて毎時1μSvを超す空間線量を測定した。
 安全を守るべき国こそが被災者の立場に立って救済すべきことなのだが、悲しいかなわが国は被災者に負担を強いるだけでその責任を放棄している。私たちは、南相馬の被災者と連帯して、今後も客観的なデータを集積する中で、見えない敵≠フ放射性物質の汚染状況を可視化させるとともに、国や行政の無責任さを追及していくことを考えている。


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