エジプト情勢が緊迫している。81年以来30年近く政権にあったムバラク大統領は11年、退陣を迫るデモによって辞任した。政権批判は経済自由化の下に進められたIMF従属政策の結果としての窮乏化と外資流入による大衆の不満の高まりによるものであった。米国・EUからの食糧輸入政策で農業は壊滅状態、民営化、緊縮政策は貧困と失業を悪化させるばかりであった。翌12年大統領選挙で「自由公正党」ムスリム同胞団のムルシ氏が政権についたが、新政権も新自由主義政策を継続、社会・経済危機を軽減することはできなかった。そして今回の軍クーデターである。ムルシ大統領は権限をはく奪され、これを歓迎するデモ隊とムルシ支持派が衝突、死傷者を出している。混乱の中、国民の真の利益を実現しようとする勢力は攻撃を受けている。
エジプト軍はイスラエルに次ぐ規模の米軍事援助を受け続けてきており、ペンタゴンの強い影響力下にある。米中央軍(CENTCOM)にとって中東・アフリカ地域のアクセスにとって最重要だからである。一方、ムスリム同胞団はナセル政権打倒のために1940年代から英・米情報機関と協力してきた歴史をもち、現在はシリアの反政府軍と軍事協力している。いわゆる「アラブの春」により不安定化したエジプトはNAT
O・米軍にとってリビアの政権転覆・破壊に決定的な好条件であった。
エジプトの民主化は隣国のパレスチナ、無政府状態のリビアの問題と交錯し、米中東戦略の中で揺さぶられている。
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