イラク戦争から10年、北部クルディスタン地域(ドフーク県、アルビル県、スレイマニア県の3県)は、住民一人当たりのGDPが戦争前の325ドルから2011年推計で約4500ドルと大きく変わるほど、この戦争を契機に石油・ガス資源開発と国際石油企業の進出で重要性が高まっている。
背景にクルド自治政府の外資優遇政策、つまり外国人投資家も国内投資家と同等の処遇、利益の全てを本国送金可能の投資法(06年)がある。中心都市アルビルでは05年に国際空港がオープン、大型ショッピングモールや高級ホテル、郊外には高級住宅街が続々と建設されている。
工事を担うのはインドやバングラデシュからの出稼ぎ労働者で、「第二のドバイ」とも呼ばれるほど好景気だ。さらに親米・親トルコ政策がとられ、米エクソン・モービル社・シェブロン社、仏トタル社も鉱区に参画、地中海への出口であるトルコの港湾までの輸送ルートは物流で賑わっている。爆弾テロに揺れるバグダッドとは対極にある。
この地方は連邦国家イラクの一部を構成しており、フセイン政権下で74年に自治法が成立。しかし、91年の湾岸戦争以降は中央政府の権限が及ばなくなり、現在はエネルギー資源の開発や輸出を巡り中央政府と対立するまでになっている。また、同地域にはシリア系クルド人を含め、内戦からの難民22万人超が流入し、トルコ・イランに居住するクルド人にも自治を巡って新たな動きが生じている。
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